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昔の話
昔、超体育会系の部署に所属したことがありました。
とにかく「売る」ことに特化していて、自社の商材を売るための勉強、モノを売るための勉強をひたすら行いました。当時はまだ黎明期だった神田昌典氏が日本に持ち込んだとされるダイレクトレスポンスマーケティング、その手法を踏襲した方々の本を読み漁りました。
私が入社した会社は数千人の社員で構成され、部署がいくつか存在していましたが、私が所属していたのは会社の中でも花型の部署でした。と言うのも、給与のベースがそもそも違ったのです。扱っている商材が高額なこともあり、他部署の数倍の給与(もちろん会社に対する相応の貢献は必要ですが)を頂戴することができました。
最終目的は自社の商材を販売することでしたが、その第一段階として見込み客をセミナーへ案内し、申し込みを獲得することにありました。
まずはセミナー用のDMを作成します。
これは過去に何度も使われたDMを流用するのですが、それに加えて全国に点在する支店で使われたDMを流用することもありました。他の支店で使われたDMはとても有難いものでした。なぜなら、そのDMでどのくらいの集客があったかのか、作成した担当者へ電話すれば確実に分かるからです。この地域で効果があったDMはあの地域では効果がない、ということはほとんどありません。おしなべて一定の効果があるのが普通です。
ベースになるDMが決まったら、開催予定のセミナーの内容に合わせて書き直します。
そのためには「ストーリー」が必要です。参加頂いた見込み客をどの様な感情にさせ、どうやって誘導していくのか、この段階で「ストーリー」を構築します。全体のストーリーをコンパクトにしたものがDMの位置づけです。
作成したDMを支店長に確認してもらい、OKが出たら郵送という流れですが、ここでDMに手を加えます。DMをプリントアウトし、そこにペンで吹き出しを書き、特に注目して欲しい部分にコメントを書き添えます。自分で作った文章を二重線で消し、ペンで書き直したりもしました。
なぜわざわざDMを汚すのか。それは手書き部分に重要な要素が含まれていて、そこに注目してもらいたいからです。
完成したDMは一言で言うと、非常に胡散臭いDMになります。
ただ、これが効果を発揮します。
全くその内容に興味がない人が見たら、おかしな落書きがしてある読みづらい手紙にしか見えないでしょう。
しかし、興味がある人が見たら、より興味を引くものに仕上がります。
人は本能的に違和感を見つける習性があります。
例えば、四角形のものがあったとします。しっかり整った形は落ち着きをもたらします。
この四角形の一部が欠けていたとすると、その欠けた部分が気になってしまうでしょう。
一部が汚れていたとしたら、その汚れが気になります。
先ほどのDMの内容はこれに似ているのかも知れません。
パソコンでプリントアウトされたものに、人が書いた文字が加わっていれば、その違和感が気になってついつい見てしまうものです。
いずれにしてもセミナーの内容に興味がない方であれば、手書きがあろうがなかろうが、そもそもDMを見ないので結果は同じです。
であれば、少しでも興味がある人が、セミナーを楽しみにご参加頂いた方が余程効果的なのは言うまでもありません。
そしてDMの準備が出来たらそれを封緘します。
その封筒も、もちろん中身を読んでもらえるような工夫を凝らします。
封筒だけ見てゴミ箱へ直行することがあれば、時間を費やして作成したDMが無駄になってしまうので、できるだけ封筒を見て「きっとつまらない郵便物だな」と判断されないようにする必要があります。
ところで、最近のDMで面白い工夫がしてあるものを見ました。
封筒の裏面に「あなた自身の手で開封してください」と筆文字で書いてあるのです。
きっとこれは開封率が高いのだろうと思いました。
DMが見込み客の手元に届き、数日もするとFAXで申し込みが入ります。
セミナーの案内はDMだけではありません。申し込んで欲しい見込み客はまだいます。
次にFAX用のDMを作成します。これは郵送したDMとは違ったパターン、切り口にします。あくまでDMを読んでもらった前提にはなりますが、郵送したDMではピンと来なかった、あるいは心に響かなかったという前提で、ストーリーを再構築します。
私が過去、FAXのDMで270通送信し、27件の申し込みを獲得したことがありました。FAX DMの反響率は0.1%~0.3%と言われており、0.5%の反響があればパフォーマンスは良いと言われる中、私のFAX DMの反響率は10%であり、反響率としては異例の数値を叩き出しました。
ある時支店長が面白いものを見つけました。
「楽しい」と筆で書いてあるのですが、「楽」の文字が笑った顔に見える、というチラシでした。
どうやら近くのカフェの店主が筆に覚えがあるらしく、店主自慢のコーヒーを飲みながら筆の勉強もできるとかで、早速支店のみんなで習いに行くことになりました。習う、と言ってもコーヒーを飲みながら2時間ほど、いわゆる「エモい」字の書き方を教えてもらうだけですが、これがとても良い経験になりました。私は元々クセのある字を書きますが、これが筆とマッチしたのか、存外「エモい」文字を書くことができ、無事に先生から免許皆伝を受けることができました。
さて、せっかく習得したこの筆の技術を仕事にどう活かすのか。私はこの技術を封筒に使うことにしました。
開封率の向上に繋がったどうかは検証していないのでその効果は不明ですが、筆という新しいツールを手に入れたことは確かでした。
現在ではZOOMでのセミナーが当たり前になりましたが、当時は会場まで来て頂く必要があったため、なかなかハードルが高いものがありました。
言ってしまえばセミナーの後には商材の紹介があり、それを勧められることは薄々分かっていながらも会場まで足を運んで頂けるのは感謝しかありませんでした。
どうやったら伝えたい人に響くのか。どのように伝えたら良いのか。
それを表現する場は媒体こそ違いますが、要はどれも同じです。
新聞の折り込み広告、街中にある看板、ホームページやランディングページ。今ではほとんど見かけなくなった飛行機の宣伝放送。どれも何かしらのメッセージを伝えています。
各企業が届けたいメッセージを、それを必要としている人に届けるのが我々の仕事です。
この経験を活かし、ご縁を頂戴したお客様へ貢献できれば幸いです。